山野穴太のいまどきナースこぼれ話

2010/07/26
第31回 山野穴太のいまどきナースこぼれ話:ひよこに言ってはいけない台詞
 わが輩は憂鬱である。天気予報で「明日から豪雨」という日に、トロ箱に入れて捨てられていた猫の親子(産まれたてのまだ目の開いてない仔猫が6匹)を見つけ、止せばいいのに引き取ってしまった。女学生が2人で何やらおろおろしていたのを、つい覗いたのが運の尽き。曇り空の下、交通量の激しい道路脇でけなげに乳をやっている母猫を見るとだめである。捨てた人のせめてもの良心か、1回分の餌と水、暑さしのぎに凍らせたペットボトルが箱の中に置かれていた。女学生たちはしきりにメールで貰い手を捜していたが、だめであった。わが輩が泣く泣く引き取って、物置でこっそり飼い始めてすでに10日、幸い豪雨にも遭わず、やっと仔猫の目が開いた。すでに、わが家には外猫が7匹いるというのに、加えて今回の親子が7匹……。たぶん貰い手は現れないだろうから、憂鬱である。『ネコママとチビたち』(注)という殺処分された仔猫の絵本を読んだ後だけに(読んでなくても)、飼うしかない(泣)。
 さて、ひよこたちも初めてのボーナスをもらった。しかし、彼らに喜ぶゆとりはなく、やめたいとか、頭に来たというメールが多い。特に、管理者やお姉さまたちの何気ない(あるいは含みのある)言葉が、貴重な(?)ひよこたちを退職に駆り立てる。2、3紹介する。

 1) もう○カ月よ
 例えば、「もう3カ月よ、いい加減覚えてね」。要領が悪いのは認めるが、全部を数カ月で覚えられれば苦労はない。人それぞれの理解度は違う。一歩一歩努力しているのに、溜息混じりでこのような嫌味を言われると、泣きたくなる。そもそも、ひよこにとって、深夜勤務のカルテ整理が翌日の昼過ぎまでかかるのが当たり前の現場では、本人の努力の足りなさ(含む要領の悪さ)もさることながら、システムにも問題があるのではないだろうか。

 2) どうせちやほやされてきたんでしょ
 最近は少子化である。4年制看護学部でも1人っ子や2人っ子が多く、家庭で、甘やかされてないともいえない。人の生命を扱う看護という職業を選んでいるのだから、ある程度の徒弟制度的経験は仕方がないのかもしれないが、それを理解するには時間がかかる。しかし、今まで育ってきた環境や境遇を持ち出すのは御法度である。さらに絶対言ってはならない台詞は、「親の顔が見たい」である。信じられないがこの台詞を吐く軍曹レベル(主任クラス)のお姉さまがいる。これは師長さまたちもきつく注意しないと、単に退職願いだけではすまない。「あの人は後輩に厳しいのよね」と嘆いていても、院内委員会に訴えられて大騒動になり、管理者にも汚点がつくこともある。

 3) 医師にばかり質問するんじゃないのよ
わからないところを医師に聞いたり、直接医師から指示を受けたりすると、時に、嫌味混じりに言われる台詞である。ひよこは先輩に質問しても要領を得ないし、また、叱られる。だからといって主治医に質問すれば、上記の台詞がお姉さまたちから返ってくる。いったいどうすりゃいいのよ! となる。

 泣いて耐えてくれるひよこばかりだといいが、「頭きた」「辞める」と言い出されないためにも、病院の新人教育システムを考える必要があるのではないか。特に、4年制大学卒のひよこへの教育は、事例によっては旧陸軍の「古参兵による幹部候補生への教育(しごき)」を想像させるようで不安である(わ、わが輩も古い映画でしか経験ないが、(^-^;))。

注)ありはらみゆう著,ちょうさわこ絵,ネコママとちびたち.文芸社,2006.